2013年3月8日金曜日

扉は閉じられた~The DOORS/ザ ドアーズ 「Riders On The Storm/嵐のライダー」


フランシーヌ千里です。暖かくなったと思えば、また寒くなったり… みなさまは風邪など召されていませんでしょうか。今回のテーマは、あまりにもビッグな! あのドアーズです。
特にジム・モリソンについては、いわし亭部長の思い入れもひとしおのこのバンド。
現在、活躍する多くのクリエイターたちが彼をリスペクトし、音楽家のみならず多大なる影響を与え続けていますが、そんなこのバンドやジムはいったいどういう人だったのか? その成り立ちや他のロックバンドとはどう違っていたのか? いわし亭部長が語ります。




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ドアーズは、オルダス・ハクスリーが著したサボテンからとれる幻覚剤メスカリンの体験エッセイである 『 知覚の扉 』 という当時、ロサンゼルスの若者なら誰もが小脇に抱えていた書籍からそのグループ名を冠している。
この “ 知覚の扉 ” と言う言葉は、英国の画家、詩人、銅版画職人であるウィリアム・ブレイクの 『 天国と地獄の結婚 』 の中の “ 知覚の扉が拭い清められる時、万物は人の前にありのままに、無限に現れる ” という一節から拝借しており、こうした逸話そのものが、ドアーズの知性を雄弁に物語っている。

ロックが若者の暴力衝動や反権力と言った志向を反映して、メンバーが非日常的で乱暴なふるまいを得意とし、ノイジーなだけの演奏や稚拙な歌詞の絶叫で、言わば芸術的な評価に全く値しないという地位に甘んじていた頃、突然変異のように現れたドアーズは、ロック史上初めて芸術的に論ずるべき、鑑賞に足る音楽としてのロックを創造した。
その意味で、ジム・モリソンは本来、ポオ、ホーソーン、メルヴィル、マーク=トウェイン、ホイットマン、ヘミングウェイ、ヘンリー・ミラー、ミッチェルといったアメリカ文学の系譜に属する詩人と言ってもよい。

ドアーズが結成されたのは1966年8月、場所はヴェニスの海岸である。UCLA映画学科の友人 レイ・マンザレクと偶然、出会ったジム・モリソンは、 「Moon Light Drive 」 の歌詞をうたって聞かせた。
この詩が持つイメージの広がりは、それまでのロックの歌詞とは明らかに異なっている。


Let's swim to the moon, uh huh
Let's climb through the tide
Penetrate the evenin' that the
City sleeps to hide
Let's swim out tonight, love
It's our turn to try
Parked beside the ocean
On our moonlight drive



ドアーズのユニークさはそのバンド形態や演奏スタイルにもあった。

電気楽器がまだ黎明期にあった当持、バンド スタイルと言えばバディ・ホリーがザ クリケッツで確立したギター2本、ベース、ドラムでの編成が支配的であった。ところがドアーズは他のバンドとサウンドが似通ってしまうのを嫌い、敢えてベーシストを置かなかった。
キー ボードのレイが左手でローズ ピアノベースを弾き、ギタリスト ロビー・クリーガーが低音弦のフィンガー ピッキングを駆使する等、各プレーヤーがベース パートを意識することでそれを補ったのである。

ドアーズの演奏は、黒人音楽やブルーズに傾倒していたモリソンの資質、ジャズ ドラマーだったジョン・デンズモアのスキルに加え、フラメンコ ギター、あるいは西海岸のヒッピー カルチャーから生まれたサイケデリックのテイストを彷彿するオルガンの音色 といった要素が混然一体となり、唯一無比の個性を形成した。

また、ライヴでのジム・モリソンの即興的に披露される詩の世界観を音響的にサポートしたり、ブルーズを基調とした非常にフレキシブルなインプロヴィゼーションをも得意としていた。
ヒット曲の 「 ハートに火をつけて 」 やギリシャ神話のオイディプースに題材を求めた 「 ジ エンド 」 といった曲は、ライヴでは数十分にも拡大されて演奏されたのである。

一方で、“ 生みの苦しみをはらんだ休止 ” と呼ばれた演奏の中断がある。曲の途中で演奏をやめたり、ジムが単語の途中で口をつぐんでしまうのだ。
いわし亭も数多くのライヴを見てきた自負があるが、このような方法論で、ステージ効果を上げたバンドはゼロ年代に入った今日でも、見たことがない。





1. チェンジリング
2. ラヴ ハー マッドリー
 3. ビーン ダウン ソー ロング
 4. カーズ ヒス バイ マイ ウィンドウ
 5. L.A.ウーマン
 6. ラメリカ
 7. ヒアシンスの家
 8. クローリング キング スネイク
 9. テキサス ラジオ
10. ライダーズ オン ザ ストーム/嵐のライダー


ジムの遺作。
アナログ アルバムのA面、B面の最後には7分強の大作が控えている。「 L.A.ウーマン 」 「 嵐のライダー 」 であるが、両曲とも素晴らしいキメを連発する傑作だ。表題曲 「 L.A.ウーマン 」 の中で象徴的に繰り返される ♪ MR.MOJO RISIN‘ ♪ というフレーズは JIM MORRISON のアナグラムである。

ジムの生前に制作されたドアーズのオリジナル アルバムは全部で7枚 ( 1枚はライヴ アルバム ) しかなく、その全てがゴールドディスクに輝いているが、『L.A.ウーマン 』 の最後を締めくくる 「 嵐のライダー 」 は、彼らの作品の中でも屈指の名曲である。
いわし亭がドアーズの作品で一曲、選ぶとしたら間違いなくこの曲を推す。7枚のアルバムから1枚を選ぶのであれば、これはもう間違いなくデビュー アルバムなのだけれど…

その静から動への見事な構成は、モノクロームの画面が色づいていく瞬間を垣間見るような音響的グラデーションでリスナーを捕捉する。円熟味を増したジムのヴォーカルは実に表情力豊かであるが、それがいっそう、その後の自身の死をも預言するかのような鬼気迫る凄みを感じさせ、まさに入魂の一曲に仕上がっている。

「 レクイエム 」 が結局、モーツァルト自身のそれになったように、ジムもまた、この曲によって自らを鎮魂する運命だったのだ。










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