2013年4月9日火曜日

明るく 楽しく 激しい ~ 恐るべき姉妹デュオ チャラン・ポ・ランタン


チャラン・ポ・ランタン presents
『 女をなめんなよスペシャル in 大阪 ( 初 ) 〜 姉妹結成20周年記念編 〜 』
大阪公演 3月8日(金) @ 心斎橋サンホール

【出演】チャンラン・ポ・ランタンと愉快なカンカンバルカン
【ゲスト】中川敬(ソウル・フラワー・ユニオン) ザ・たこさん リバーシブル吉岡



同じ時間に歩いて5分の心斎橋 LIVE HOUSE BIG CATで、クリスタル・ケイがライヴを行っている。入場の行列を横目で見ながら、アメリカ村のボーリング場地下にあるSUN HALLにチャラン・ポ・ランタンを見に行く。昨晩、飛び込みでエントリした前売りの予約番号は163番。おそらく、この後はあまり予約もないだろうから、入場者数は全部で200人くらいか。

今回は “ 愉快なカンカンバルカン ” という管楽器チーム ( テナーサックス/ソプラノサックスまたはアルトサックス/トランペット/ドラム/ウッド ベース 2010年4月頃結成! カンカン帽をかぶり、バルカン ミュージックをやるヘンテコでブンチャカなサーカス エンタテインメント ショウ! ) とのセットで来阪した。


ゲストもそれぞれ味のある曲者ぞろいだったのだが、そこはそれ、コメントは割愛する。



チャラン・ポ・ランタン ( CHARAN-PO-RANTAN ) は、姉でアコーディオンの名手 “ 小春 ” と、この4月9日でめでたく20歳を迎える妹のヴォーカル “ もも ” からなる姉妹ユニットである。2009年、夏、実家 (!) で結成されたという。


ネットで調べたところ、“ 小春 ” のアコーディオンは日本代表として世界大会へ出場するほどの腕前 (!) であり、ステージでは確かに、それを裏付けるやり取りがあった。

チャラン・ポ・ランタンのステージの前にソウル フラワー ユニオンの中川敬が新人フォーク歌手 ( 笑 ) として登場したのだが、途中からヘルプで演奏に加わった小春は、何と “ ( 中川が ) 次に何を演奏するか、教えてくれなくても別にいいです ” と “ イントロ当てクイズであわせます ” と、発言したのである。これはあまりにも脅威である。

もちろん、その名手振りはチャラン・ポ・ランタンのステージでも十分堪能できたのだが、むしろ本線では毒舌キャラ “ 小春 ” のMCが立ち過ぎて、その演奏の凄まじいレベルの高さが伝わりきっていないきらいはある。


アコーディオンという楽器は、フランスのポピュラー音楽 “ ミュゼット ( musette ) ” 、タンゴの革命児 アストル・ピアソラ、あるいは、ロマ ミュージック、サーカスのジンタ、大道芸、ヨーロッパ といった様々な単語が浮かんでは消えるイマジネーション豊かな楽器だ。

いわし亭の世代からすれば、まず思い浮かぶ名手は、横森良造さんだ。いわし亭は、ジュディ・オングがあの重厚なアレンジの 「 魅せられて 」 を、横森さんの伴奏だけ (!) で歌わされているのを見て、非常に複雑な感想を抱いたことを思い出すが、アコーディオンは一台でオーケストラに匹敵する楽器であり、それほどに万能な楽器である ということなのだ。

母と一緒に見たサーカスがきっかけでアコーディオンを始めた “ 小春 ” は、新宿ゴールデン街での “ 流し ” や大道芸で経験値を積む。そこで培われたコミュニケーション能力の高さからか、“ 小春 ” が客席を豪快にいじり、ケンカを売ることもしばしば ( 笑 ) で、それはライヴ開始直前の “ もも ” のインフォメーションでも、諸注意 ( 笑 ) として触れられていたが、実際、爆笑必至の場面が何度もあった。


チャラン・ポ・ランタンが冠の大阪公演は、まだまだ少なく、“ 小春 ” が “ 今回、初めて というお客様は、どれくらいいるのかなぁ? ” 的な質問をしたのだが、常連の方が挙手したらしく ( 笑 )

ばぁかたれ! お前 知ってんだろ

昔から見たことあるやつが 手ぇ挙げてるから 
こないだからね やたらなんか 初対面みたいな顔しやがって
手ぇ振るな 手ぇ振るな

と、痛烈に突っ込まれていた。もちろん、場内、割れんばかりの大爆笑。


“ もも ” の “ うなり節 ” を効かせた唱法は、アイドル然とした可愛らしいルックスからは、とても想像がつかないものだ。しかも歌われるのは、“ 小春 ” の実体験に基づく (!) 愛憎入り乱れた毒性の強いドラマ仕立てのストーリー。
いわし亭が、“ もも ” の唄を聴いて、最初に想起したのは、’70年代の女性ムード歌謡やグループ サウンズ、あるいは演歌のそれであり、例えば青江三奈、日吉ミミ、黛ジュン、渚ゆう子、弘田三枝子、青山ミチ、都はるみ、笠置シズ子等である。しかし、“ もも ” は弱冠二十歳なのだ。

さらには、ヨーロッパを放浪するジプシー クイーンの最高峰 エスマや中近東の歌姫 オフラ・ハザ、インドネシアの美空ひばりことエルフィー・スカエシといった非英語圏の超絶歌手が思い浮かぶ。

それは、彼女たちのバック バンドに引けを取らない “ 小春 ” 以下 “ 愉快なカンカンバルカン ” の高い演奏力 ( そのスピードあふれる疾走感も含め ) に由来するものだ。
彼女たちのバック バンドは、まるでヴォーカリスト自身が演奏しているかのような、正に弾き語りといってもいい距離感で、ヴォーカリストをフォローする。ライヴ中のヴォーカリストの気まぐれさえも完璧に である。そのため、ライヴから生まれるグルーヴ感が物凄いのだ。それぞれの楽器は、もちろん別々のミュージシャンが演奏しているのだが、たった一人の演奏家が奏でているかのような完璧なキメとブレイク、そして自由自在度で、生命力にあふれた実にヴァイタルな演奏が展開されるのである。


19時半にスタートしたこのイベント、トリのチャラン・ポ・ランタンがステージに登場したのは21時頃だったが、ここからの約70分は、とにかく嬉しい吃驚! の連続であった。


チャラン・ポ・ランタンの楽曲には、オリジナルとカヴァーの境界線がない。全てをチャラン・ポ・ランタン色に染め上げていることに感心させられる。


例えば、「 ムスターファ 」 。なんか聴いたことあるなぁ と思ったら、あの坂本九ちゃんが10万枚の大ヒットを記録した 「 悲しき六十才 」 ではないか。歌詞はかなり変わっているが、メロディやサビはそのままだ。そもそも、青島幸夫による作詞自体が日本版オリジナルなので、“ もも ” の歌う歌詞の方が本来のものに近いのかもしれない。

原曲はトルコのヒット曲で、一応、アザム・バークレイ作曲とのクレジットはあるが、トルコからアラビアにかけて古くから唄われていた俗謡が元になっている。いわし亭はこの曲での、九ちゃんのしゃっくりのようなブレスが、マイケル・ジャクソンのそれとあまりにも似ていたので驚かされた記憶がある。

そもそも昭和歌謡は、ちゃんとできているかどうかは別にして ( 笑 ) こうした懐の深さを持っていたように思う。

例えば、橋幸夫は演歌歌手のイメージが強いが1967年発表の 「 恋のメキシカン ロック 」 で、テキサス ロックとメキシカン ロックを融合させた “ テックス メックス ” にチャレンジしている。ピーナッツは1972年収録のライヴ盤で、キング クリムゾンの 「 エピタフ 」 を見事なユニゾンでカヴァーしているし、左とん平の 「 とん平のヘイ・ユウ ブルース 」 ( 1973年 ) はファンキー過ぎるラップである。当然のことながら、美空ひばりは天才の名を欲しいままにし、恐るべきジャズ ヴォーカリストでもあったのだ。

ジプシーたちの奏でた音楽は、現在ではロマ ミュージックと総称されているが、実はこの音楽には実態がない。ロマは北インドに起源を持ち、およそ1000年以前には北インド、ラジャスタンを離れ、西進しながら放浪生活に入っていたと考えられている。

彼らは、生活の糧を得るため大道芸に秀でたが、それはあくまでもリスナーの嗜好にそったものであり、放浪する先々で様々なリクエストに応え、その土地・土地のヒット曲をカヴァーし、あるいは影響を与え、ロマ ミュージックという巨大なメルティング ポットの中でミクスチャー ミュージックを作り上げて行ったのである。このあたり、ロマの血を引くトニー・ガトリフ監督の 『 ラッチョ ドローム』に詳しい。
バルカン半島は世界でもロマの人口が極めて高い土地で、そこで伝承された音楽は、当然のことながらロマ ミュージックの影響を色濃く残している。

つまり、ロマ ミュージックの強靭な雑食性と大道芸を体現した “ 小春 ”、それを伝承したバルカン ミュージックを指向する “ 愉快なカンカンバルカン ”、そして、昭和歌謡の持つ懐の深さをマスターした “ もも ”。彼女達が混然一体となって演奏を繰り広げ、恐るべき完成度で提示されているのがチャラン・ポ・ランタンの世界なのだ。


アンコールで披露されたのは「ハヴァ ナギラ ( Hava Nagila )」。この曲は初めて聴いたのだが、これも中近東や東南アジアの民族ポップスを彷彿させ、後日、調べてみるとはたしてイスラエルの民族舞曲であった。歌詞はヘブライ語で、ユダヤ教徒の結婚式や成人式などで演奏されているらしいが、こういう楽曲に着目するセンスそのものが素晴らしい。




と、まぁ サウンドの解題はいくらでもできるのだが、実は、そんなことは二の次だ。とにかく、チャラン・ポ・ランタンのライヴは楽しい! 中毒性の強いその 歌詞はさておき、聴感上の印象はまるで、NHKの “ みんなのうた ”。ぜひ、YouTube にアップされている映像を見て欲しい。






これほど魅力的なヴォーカリストには、ほんとに久しぶりに出会いましたの “ もも ” ちゃん。そして、MC立ち過ぎ、アコーディオンの名手 “ 小春 ” さん。もうとんでもないですよ、この姉妹。


“ 小春 ” さんは、演奏の流れを
感覚でとらえるセンスが際立っていて、この大所帯のバンドをきちんとまとめ上げるバンド マスターとしての存在感を十二分に発揮していました。
彼女のアコーディオンはリード楽器であると同時に、スタート カウントはもちろん、スピードやムード、曲の表情等々、演奏の方向性を決める指揮棒でもあって、例えばそれは、交響曲の演奏でコンダクターがヴァイオリンの弓を使って指揮をしながら、同時にソロも取ってしまう あの感じに良く似ている。

いわし亭は、たくさんの楽器がブンチャカ一斉に鳴る という音楽が基本、大好物なんで、もう、ずっと楽しくて楽しくて仕方なかったぞ! 

というわけで、次回 6月2日 大阪 梅田 SHANGRI-La のチケットも買ってしまいました とさ。あ~ 楽しみが、また一つ増えたなぁ。



  


 

『ふたえの螺旋』 
1. 今日のさよなら -overture-
2. サーカス・サーカス
3. みなしごドロシー
4. 世界のフルコース
5. 歯車
6. 今更惜しくなる
7. Oppai Boogie
8. 中野から新宿の電車でカバンを失くした!
9. みきちゃんの目玉焼き
10. 鍵穴
11. 滲んだ希望
12. カレーのお誘い
13. ライムライトを浴びて
14. 最後の晩餐
15. 今日のさよなら -encore-





今となっては貴重な松永姉妹の直筆サイン入りチケット








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