2014年4月18日金曜日

灰野敬二 ~ 魂の司祭 サンヘドリン大阪に降臨/インプロヴィゼーション ( 即興音楽 ) とは何か?

インプロヴィゼーション ( 即興音楽 - 灰野敬二は “ インプロヴィゼーション ” という言葉を嫌うことで有名ではあるが、ここでは一般的な記号として普及している呼称を用いることとする。ご容赦いただきたい ) というと、誰にでも出来る出鱈目 と概ね曲解されていて、もちろん世の中にはそういう勘違いも含めて即興の中にカテゴライズされるものは沢山ある。ただし、リアルタイムの即興の中で、鑑賞に値する音楽を生み出すには恐るべき自己鍛錬と強い精神力、継続的な演奏を支える体力や手癖に陥らない技術が必要だ。
それゆえにインプロヴィゼーションの時空間の中で、演奏家にかかる負荷は尋常ではない。
さて、灰野敬二である。


2014.3.20 サンヘドリン @心斎橋CONPASS


インプロヴィゼーションというフィールドにおいて、極北を行くギタリストこそが灰野敬二である。そして彼が恐るべき集中度で放射する音塊に、瞬時に対応できるスキルを達成している吉田達也 ( ドラム )、ナスノミツル ( ベース ) の最強超攻撃的リズム セクション。これがロック トリオ “ サンヘドリン ” である。頭痛薬と間違えそうなこの名は、ローマ帝国支配下のユダヤにおける最高裁判権を持った宗教的・政治的自治組織に由来する。そのポテンシャルは、極端な話、灰野敬二のパーマネントなグループ “ 不失者 ” をも上回っているのでは!? と思える瞬間さえある。

インプロヴィゼーションとはしごく簡単に言えば、作曲と演奏を同時に行うことだ。
そのプロセスをもう少し説明すると、意識を集中した即興音楽家に、次に鳴らすべき音が降りてくる。即興音楽家はそのインスピレーションを具体的な音響へ変換するために最適なコードやフィンガリングを瞬時に選択していく。ある意味、これは空間を飛び交う電波を受信し、映像へと変換する TV アンテナとモニターの関係に似ている。アンテナやモニターの能力が不十分であれば、歪んだ見づらい映像しか得られない。勘違いの許に提供されるインプロヴィゼーションのほとんどは、このノイズの多い映像なのだ。
即興演奏家はインスピレーションを正確にトレースするためにテクニックやスキルを磨き上げる。そのレベルが高いほどトレースの精度も上がる。逆に言えば、インプロヴィゼーションは降りてきた音を再現するテクニックやスキルに上限があるほど、つまらないものになる。つまらないとは、要するにどの視点においても評価するに値しない ということだ。誰にでも出来ると思われている出鱈目は、このレベルに留まっているから、つまらないのである。


もちろん灰野敬二は、自分がこれから出そうとしている音について全て分かっているし、同じ演奏を何度でも再現できる。それは、プロ棋士の感想戦において、何手目かの盤面を即座に再現できるプロ棋士の記憶力に驚嘆させられるのと同じレベルの技術である。アマチュアにもプロフェッショナルを凌駕する瞬間がないとは限らない。しかし、アマチュアはその瞬間を再現できないがゆえにアマチュアなのである。
また、音響化のための体力も尋常でない。音に対する感覚を研ぎ澄まし、降りてきた音を正確に再現するためには、想定外の奏法をいくつも要求されるかもしれないし、手癖に堕したメロディなどはお呼びではないからである。
インプロヴィゼーションにリハーサルがあるとも思えない。リハーサルを経た音楽は二度目の演奏と言うことになり、生き生きした感覚を著しく失うだろう。バンドのメンバーはあくまでも個人練習のレベルで、技術を高め、それぞれが演奏の場にやって来て、現場では正に試合をやる様に、その場その場の展開に応じ、臨機応変に音を出していく。

灰野敬二が動機を与える。その時間、その場所に到るまでの、感性・緊張感・体調など一期一会の様々な要因が動機に反映される。それに即応して、ドラム パート ベース パートも動く。いわゆるコード進行を基底において行うジャズのインプロヴィゼーションでもなく、またそうした制約すらも解き放ったフリー ジャズほどアヴァンギャルドでもなく、正にこれはロックのフィールドにおけるインプロヴィゼーションなのだと思わされる。
フリー ジャズの場合、音の一つ一つの凄味がもたらす一瞬のインパクトは素晴らしいのだが、初めてこうした音塊に接した時、どのように聴けばいいのか分からなくて、戸惑わされることがある。サンヘドリンの演奏では、凄まじいギター サウンドにドラムとベースがフレームを与えることにより、ここで鳴らされている音は限りなくロックに近づいていく。画家が描こうとする風景を親指と人差し指で作った窓で決めていく様に、ドラムとベースがギターの音塊からフォーカス ポイントを切り取って、リスナーにガイドラインを提示してゆく。結果として、ここで生まれたインプロヴィゼーションは高い緊張感と耳を奪う音塊の連続で、その場にいる者を終始圧倒し続けた。これは紛うことなくロックの音だ。
単なる手癖の産物ではない、湧き出ずる泉のような創造の連続は、おそらく提示する側にも相当の心理的肉体的軋轢を負荷すると思われ、毎回これを完走してのける灰野敬二と言う人物が常日ごろ、如何にストイックな生活を自らに強いているのかが伺われた。正にインプロヴィゼーションの鉄人である。


灰野敬二は演奏している姿が美しい。痙攣気味に震えながら、ギターの弦をかき鳴らすそのフォルムは、正に音楽の真相、深淵に奥深く分け入ろうとしている学究者のそれであり、立っているものが全て倒れた後も屹立し、恐るべき求心力で我々の耳を捕まえ続けるのだろう。
灰野敬二の演奏を聴くことは、正に即興演奏家が降りてきた音をとらえ、それを音楽として編み上げていくプロセス、音楽が生まれ出る瞬間に立ち会うことである。
原始地球でどのような段階を経て、生命が誕生したのか? その秘密を解き明かすかのように、人間と音楽の原初的な関わりにおいて、音楽が生成されてくる様子をまざまざと見せつけられるこの実験室のような場所は、正に神の司る空間に等しいとさえ思える。





『 IN THE WORLD 』

灰野敬二がDJとして活動すると聴いた時は、にわかに信じられなかった。しかし、灰野敬二の中の埋蔵量の一端が開示されるのであれば、こんなに嬉しいことはないと、その完成を心待ちにしていたのだが、ついに登場の “ experimental mixture ” 初のオフィシャル作品は、なんと3枚組の大作アルバムとしてドロップされた。
それはカントリー、ヒップホップ、クラウトロック、サイケ、プログレ、エレクトロニカ、アフロ、ジプシー、ジャズ、バロック、クラシック、ハードコア、ロック、ポップス、ノイズという全ての音楽ジャンルに加え、ケルト、アイヌ、チベット、ネイティヴ アメリカンなど世界中の民謡、民族音楽さえ含む、トータル5時間に及ぶ音源からカットアップ、パズルのように組合わされた音響万華鏡であった。
これはもはやジャンル、国境を越えて、歴史、宗教、文化、人種… 地球の万物全てを包み込んでしまう超重量級の事件である。

DISC 1: 7 tracks ( 48分 )
DISC 2: 8 tracks ( 60分 )
DISC 3: 5 tracks ( 42分 )


灰野敬二インタヴュー by OTOTOY ~ 灰野敬二がDJ名義として初音源をリリース!?

まぶしい いたずらな祈り~不失者 2DAYS @難波 ベアーズ 2012 年 9 月 20 日







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